オーダー「補欠要員」

落語

ウィムッシュ!

落語会の依頼が近頃増えてきた。

これも自分の実力が認められ出したのだろう。

内心、かなり嬉しいことだが、冷静沈着キャラを売り出しているのでクールに装いつつ、本日の会場へ向かう。

今回の落語会はスタッフがやる気満々で、事前にポスターを作りお客さんの呼び掛けを行っていると聞いていた。

 

「本日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。高座のセッティングは出来ていますので、どうぞご覧になってください。」

 

本日の依頼主である館長とスタッフに挨拶をし、舞台室に案内される。

舞台室入口には例のポスターが掲示されていた。

一目で作り込んでいるとわかるポスター。

綺麗な配色。写真とともに載せられた出演者。そして興味を惹かれる大胆な煽り文。

 

『落語国際大会入賞者の落語を是非ご堪能ください!』

ちょwww

自分、落語国際大会出てないんですけどwww

てか、事前審査で落とされたんですけどwww

補欠要員か?www 完全に補欠要員として呼ばれたのかーーー?www

 

この煽り文が詐欺に当たるのかどうか真剣に考えていると、打ち合わせを告げられ控え室に移動する。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます。こちらが本日のプログラムとなっております。」

 

館長の仕切りで、皆、資料に目を落とす。

 

「出演順は資料の通りです。念のため、お名前に間違いがないかご確認ください。」

 

うん。名前にミスはない。

ミスはないが、気になることがひとつある。

 

『出演者:落語国際大会IN千葉入賞者ほか』

『ほか』?

『ほか』って何だ?

もしや自分のことか!!?

確かに自分は事前審査で落ちたさwwwだからって、『ほか』はあんまりだーwww

 

衝撃的な一言が胸に突き刺さる。

しかし同時に、この一言にスタッフの一生懸命な気遣いが込められていると思うと、怒るに怒れずやるせない気持ちになる。

他の出演者とこんなセンチメンタルを共感できるはずもなく、一人疎外感を受けながら開演を迎える。

出演者は舞台袖にスタンバイし、館長の開会のあいさつから落語会が幕を開ける。

 

「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。去年の11月に落語国際大会IN千葉というアマチュア落語家の大会が開催されまして、本日はそのファイナリストの方々・・・も来ていただきました!どうぞお楽しみください!」

 

今度は『も』か。。。

さっきから『ほか』とか『も』とか自分の扱いに困ってんじゃないか。

もうスタッフの気遣いとか関係ねぇ。

こうなりゃこっちから攻めてやろうじゃないか!!!

 

館長のあいさつが終わると同時に出囃子が鳴り響く。

ゆっくりと高座にあがり口を開く。

 

「みやのひろと申します。落語国際大会の決勝まで進むと、こんな素晴らしい会からお声がかかり、大変ありがたいことでございます。」

 

やってやる。

目にもの見せてやる!

 

「ですが、少々気になることがありまして・・・私 、出てないんです。ええ。出てないというか、事前審査で落ちたんですね。」

 

ドッwww

瞬間、弾ける観客。

 

「まぁ、館長さんも気を使ってくれたんでしょうね。関係者用の打ち合わせ資料には『落語国際大会IN千葉入賞者ほか』と書いてありましてね。・・・『ほか』って私一人しかいないじゃないですか!!!」

 

ドッwww

たまたま弾ける観客。

さぁ、大詰めだ!

 

「ですが、ポジティブに考えると入賞者の方々を見返すチャンスをくれたってことですからね。では、『みやのひろ』改めまして『ほか』が開口一番の口火を切らさせていただきます。」

 

ドッwww パチパチパチ!!!

笑いとともに降り注ぐ拍手。

 

よし!毒舌で笑いに繋げられた!

 

出だしの盛り上がりをそのままに、観客を湧かせて拍手のなか高座をおりる。

 

かなりの好感触。観客の受けも上々で良い落語が出来た。

 

しかし、良い落語だろうと観客に受けようと、毒舌には代わりない。

すぐに館長の元へいき、頭を下げる。

 

「失礼をいたしました!!!」

 

しかし、館長は怒りもせずに、もしろ笑顔で一言。

 

「いやぁ。実はスタッフ間でもどう書こうか迷ったんですよねー。」

やっぱり補欠要員だったんじゃねぇかーーー!!!

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