人工内耳に新タイプ…高低音域別に伝える機能


yomiDr.(ヨミドクター)からの転載です。
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音を電気信号として聴神経に直接伝えるだけでなく、補聴器のように音を増幅して伝える機能を併せ持つ新しいタイプの人工内耳が、9月に薬事承認された。「残存聴力活用型人工内耳(EAS)」といい、来年夏までには保険適用される見通しだ。
人が支障なく会話するには40デシベル程度の聴力が必要で、それより重い難聴の場合は補聴器の使用が望まれる。さらに難聴が進み、耳元の大声も聞こえない90デシベル以上になると、高性能の補聴器を使っても会話は困難だ。
そのような高度難聴には、人工内耳の手術を行う。
本来、音は鼓膜を振動させて内耳に伝わるが、人工内耳は耳にかけたマイクで拾った音を電気信号に変え、体内に埋め込んだ装置から延びる電極で、内耳にある聴神経を直接刺激する。
電極の先は、内耳のかたつむりに似た形の蝸牛(かぎゅう)に差し込まれる。入り口側は高音、先端に行くほど低音を感じる領域で、音の周波数(高低)に対応した部分の神経が電気刺激される。
のは周波数に関係なく90デシベル以上の難聴のみ。しかし難聴者の中には、低音域は聞こえても、「高音急墜(きゅうつい)型」や「高音漸傾(ぜんけい)型」など高音域の聴力が極端に下がっている人がいる。こうした人は補聴器では会話に支障が出ることが多く、有効な治療がなかった。
その点、EASは残っている聴力も活用するため、人工内耳が使える範囲を大きく広げる。耳に装用したマイクで拾った音を高音と低音に分けて、高音は電気信号として内耳に伝える一方、低音域は補聴器のように音を増幅して外耳道から送り込む仕組みだ。前者は「電気刺激」、後者は「音響刺激」と呼ばれる。
初期のEASは、電極を蝸牛の入り口近くの高音域にとどめ、先端まで差し込まなかった。電極で蝸牛を傷つけやすく、残った聴力を保つのが難しかったからだ。その後、細く柔軟な電極や手術方法が考案され、現在のEASは、電極をより深く挿入しても聴力を温存できるようになった。
高音急墜型や高音漸傾型の難聴は、一部の原因遺伝子が明らかになってきたものの、詳しいことは分かっていない。初めは高音域の難聴が進み、いずれ低音域も難聴が進むことが多い。EASの電極を蝸牛の先端近くまで入れておけば、スイッチ一つで低音域も電気刺激に切り替えられるため、再手術の必要はない。
EASは、ヨーロッパではすでに標準的な治療になっており、米国でも治験が進行中だ。日本では2010年8月から、一部に保険がきく「先進医療」として認められ、信州大病院など5病院が実施施設に指定されている。
これまで治療が行われた24人は、残った聴力を失うこともなく、会話に支障がない40デシベル程度の聴力を取り戻せたという。
24人中16人にEASの手術を行った信州大病院耳鼻咽喉科教授の宇佐美真一さんは「通常の人工内耳の手術でも、蝸牛の損傷が激しいと聴神経自体が徐々に変性し、人工内耳が役立たなくなる。EASで開発された、蝸牛に優しい電極や手術方法は、すべての人工内耳手術に応用されるべきものだ」と話している。
yomiDr.
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