【レビュー】聴覚障害者の心理臨床2

「要約筆記者に『聴覚障害者の臨床心理』をテーマに講演をして欲しい」とお声がかかり、ならば勉強をし直さねば!と「聴覚障害者の心理臨床2」を購入しましたのでレビューします。
本書は臨床心理士が聴覚障害者とのカウンセリングを通して経験したことを記した一冊です。聴覚障害者の臨床にたずさわる経緯や障害者施設でのグループカウンセリングの様子、ろう学校での遊びの様子、病院でのコミュニケーション意識の共有など、様々な場面での体験談が綴られています。
私が本書で特に考えさせられたのが、先天性難聴者の症例です。

本症例は、生後八カ月で重度難聴が発見された。ろう学校幼稚部で口話訓練を受け、小学校からは地元の普通校に通い、推薦で大学に入学した。学校での授業はほとんど理解できなかったが、親の熱心な教育により学力は保たれていた。大学入学時に「ノートテイク」のサポートを薦められ、わけもわからずに頼んでみたところ、あまりの情報量に驚いた。授業はいままで「わからない」ものだったのに、ノートテイクがつくことにより自分の知らないところでこんなにも情報が飛び交っていたのかと愕然した。さらに同じ聴覚障害の仲間から手話を学び、会話の全てを理解することのできる手話の便利さに痛感した。そうすると、今度は5,6割しか情報を得ることのできないノートテイクのもどかしさに苛立ちを感じてしまい、「いままでの自分は何だったのか」と悲観してしまう。

この症例を読んだときに、心のケアの難しさを痛感しました。
聴覚障害者へのサポートとしてノートテイクは有名です。学校によっては積極的にノートテイクの活用を促すところもあります。この症例の学校も積極的なサポートを取り入れていると考えられます。しかし、その積極性がかえって本人の「いままでの自分」を否定することにつながってしまったのです。
この症例のその後はこのように記されています。

親、医師、教師らに受かりを覚え、高ぶる感情に涙を流した。どんなに責めても収まらない胸の奥には、それまで気づかなかった自分自身への悔しさがあった。1年近い時間を経て、徐々に自分の求める方向を見定める。周りが求める自分、親が期待する自分に縛られていた心の不自由さから抜け出すことは「むずかしい」としながらも、ずっと表情は明るくなり、「子どもたちとかかわりたい」と聴覚障害児を対象とする活動に加わり始めた。

親へ早期から情報提供を行い、様々なコミュニケーション手段を習得していれば、もしかしたらこのような「自分の否定」にはつながらなかったかもしれません。しかし、それでも他人とは違うコミュニケーション手段を講じる自分に違和感を覚えるかもしれません。心の動きは実に様々です。言語聴覚士にもカウンセリング技術の必要性を感じました。
あと、巻末のほうには聴覚障害者へのアセスメントのコツや心理検査実施上の注意点等が書かれており、これが本当に役にたちます。!
まだまだ紹介したい内容はたくさんありますが、ここでは書ききれないので是非本書を手にとって読んでみてください!
臨床のためになること間違いなし!のオススメの一冊です!

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