ウィムッシュ!
新年初笑い寄席。
2017年の幕開けを飾るのになんとも縁起の良い落語会に出演できることになった。
今年1年の落語家生活を占うにもどうしても笑いをとりたい一席。
笑いを取りたいが余り、邪道かもしれないが見た目のインパクトで一笑い稼ごうと髪型を鶏冠にしてまで挑む。
会場に着き主催者に挨拶をする。
「今日はよろしくお願いします!」
「よろしく! おっ、髪型気合い入ってるねー!」
おお!好感触!
これなら客受けもしそうだ。
ひとりほくそ笑えんでいると主催者からあることを告げられる。
「今日はアンケート取るから頑張ってね!」
何・・・?
アンケートだと!?
お客さんの生の感想を貰えるってのか!
こりゃ俄然やる気が出てきた!!!
アンケートに感想を書いてもらうには何よりインパクトが大事。
同じくボランティアにきた兄さん姉さんたちの方が落語の腕前は上だが、見た目のインパクトは明らかに鶏冠が上。
名前を覚えてもらえなくても鶏冠さえ覚えてもらえればアンケートに書いてもらえる可能性は上がる!
これは運が巡ってきた!
開演時間になり、出囃子が鳴る。
開口一番。ゆっくり鶏冠を揺らすように高座に上がりお辞儀をする。
「えー満員御礼ありがとうございます。本日は大勢のお客さんがお越しくださるということで、後ろの方からもよぉく見えるように鶏冠頭にしてきました。」
クスクスw
出だしで笑いを取れた。今日のお客さんは反応が良い。
「社会人になると怒られることはあれ、誉められることは少なくなりますね。各言う私もこの髪型にしてから・・・まぁ、上司に怒られたんですがね。」
ドッwww
よし!笑いと共に髪型の植え付けに成功!
「まぁ、いきなり誉めるのも難しいんでございますな。『付け焼き刃は剥げやすい』と申しまして、慣れないことや人の真似事は失敗しやすいと言われておりまして。」
自然な流れで枕からネタに入る。
お客さんの食い付きも良く、小さなくすぐりでも声を出して笑ってくれる。
とてもやりやすい落語で、良い雰囲気のなかサゲまで終えて高座からおりる。
上々の出来。鶏冠でインパクトを与えつつもしっかり古典落語を聞かせることができた。
アンケートに何て書かれるか楽しみだなーと考えながら続く兄さんの落語を聞いているとき、ふと、視界の隅に気になるものが映る。
それは、上方落語で良くみる見台のようなもの。
うちに見台なんて使う落語家いたっけ?とボンヤリ考えていると、兄さんの噺が終わり、高座に見台がセットされる。
何故見台が・・・?
・・・やばい。嫌な予感がする。
出囃子が鳴り響き、それに合わせて姉さんが高座に上がる。
・・・やばいやばい。嫌な予感どころじゃない!
お辞儀をすると、扇子を振りかざし見台を叩く。
バシ!バシ!っと乾いた音に会場の空気が張り詰める。
・・・やばいやばいやばい。これはもしや!?
「えー、落語、落語と続きましたので、ここでガラッと変えて講談を話させていただきます」
講談だとーーーー!
ここにきて講談をやるだと!?
インパクト抜群じゃねぇか!!!
今までとは質の違う語り口に一瞬で心を奪われる観客。
そして、軽快な口調から一転、淑やかな口調で講談の世界に誘われる。
上手い・・・。
悔しいけど、上手い。
嫉妬と尊敬がない交ぜになり、複雑な感情で聞いていると、ところどころで肩を上下させるお客さんがいることに気づく。
静かに席を移動し、そっと客席へ回り込む。
すると、ハンカチで目を押さえるお客さんの姿が。。。
泣いてるーーーー!
人情噺だと思って聞いてはいたが、まさか泣かせるほどの力があるとは!
笑いから泣きとは、振れ幅が大きすぎる!!!
まさかの感情が180度の方向転換したところを目の当たりにし、意気消沈。
講談が終わってからもそのインパクトを掻き消すことができず、落語会の幕を閉じた。
閉幕後、喫茶店へ移動して軽めの打ち上げ。
「今日は皆さん素晴らしい出来でした。アンケートも書いてもらったので読み上げますね。」
と、主催者がアンケート結果を読み上げる。
『伝統芸能を堪能できました。特に講談が良かったです。』
『講談を始めて生で聞きましたが素晴らしかった。』
『落語も良かったけど、講談のお姉さんがとても上手だった!』
『お姉さんの講談をもう一度聞きたい!』
『恥ずかしながら講談で泣いてしまいました。とても良かったです。』
講談。講談。講談。講談。講談。。。
講談の感想ばっかりじゃないかー!
鶏冠のインパクトはどこいったー!?
くそぉ・・・やはり邪道はダメか。
次は正攻法で勝ってみせる。
もっともっと稽古を積んで、笑いすぎて涙を出させてやるからなーーーー!!!
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