オーダー「仕掛けられた罠~開演~」

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ウィムッシュ!

落語の演目によっては、季節を考慮するものもある。

今回選んだ「時そば」も寒い時期にこそ似合う演目だと思う。

だが、今年は気候が不安定で9月下旬だというのにコートが必要なくらい寒い日もあれば平気で半袖で出歩けるくらいの日もある。

気候により演目を変えることに決め、主催者にはその旨連絡を入れておいた。

 

落語会当日。

前日の寒さとはうって変わって半袖でも若干汗をかくくらいの気候。

こりゃ演目変更だなーと考えながら会場入りすると、入口にデカデカと落語のポスターが貼ってある。

ポスターにはしっかりと出演順と演目が書かれている。

聞いてねー!

ポスター作るなんて聞いてねぇよ!

しかも演目ばっちり『時そば』になってんじゃねぇか!

事前の連絡はなんだったんだー!!!

 

主催者さんに苦情と共に演目変更を申し入れたがもちろん通らず。

しかもプログラムには仲入り前に『落語体験』が組み込まれている。

『落語体験』とはその名の通り、手拭いや扇子の使い方を参加者と一緒に演じて落語の体験をしてみること。

そばを食う仕草を演じた後に時そばをやるなんて、ただただハードルをあげるだけでしかない。

せめてもの要望として出演順を『落語体験』より前に変えてほしいとお願いする。

だが、願いは通じず、むしろ『参加者が演技の細かいとこまで見てくれるようになるからいいんじゃない』と前向きな発言。

 

嵌められた。。。

完全に嵌められた。。。

 

演目も出演順も諦め、仕方なく練習に没頭しているうちに前半演者が終わり、落語体験の時間になる。

 

「まずは扇子と手拭いを使って手紙を書いてみましょう。」

 

主催者さんの声に合わせて手本を見せる演者とそれを見よう見まねでやってみるお客さんたち。

財布、煙管、お刺身と次々と仕草を体験していき、時間的にもそばはやらないのでは?と思い始めたその時、主催者さんから一言。

 

「今日は暑いですね。ここらで冷たいそばでも食べましょうか!」

『暑い』は禁止ワードだろー!

この次に暖かいそばが控えてるんだぞ?

その前に冷たいそばを食べる練習とは何を考えてるんだー!!!

 

次の出番のためにも手本とはいえここで全力でそばを啜る仕草をするわけにはいかない。

仕方なくスルスルスルーと目立たないようにやっていると、客席の正面にいた先輩が全力を出す。

 

「ズッ!ズッ!ズズー!」

 

ワッ!と湧く客席。

 

「では、次は暖かいうどんで。ズルズルッ!ズルズルッー!」

 

得意気に腕前を披露しだす先輩。

さらに湧く客席。

そこで落語体験は終了となり、自分の出囃子が鳴り始める。

 

こんな空気のなか時そばをやるのか。

これでは観客の期待値が高過ぎる。

笑いに繋げるには一度空気を壊して組み直すしかない。

 

ドドン。と出囃子ともに高座にあがり一礼。

 

「枕が長いと眠くなるなんてことを言いますが、今日はあえて長めに話そうと思います。というのも、プログラムに書いてある通り『時そば』をやるんですが、どう考えてもそばの話ですよね?」

 

プログラムを見て頷く客席。

 

「寒い日に暖かいそばを食べる噺なんですが、その演目の前に『今日は暑いから冷たいそばでも・・・』なんて主催者さんは自分の噺を潰す気なの!?」

 

ドッwww

一瞬で湧く客席。

勢いをそのままにすかさず捲し立てる。

 

「しかも先輩まで得意気になって『ズルズルッー!』って。そんなに上手くそば啜っちゃってどうするの?先輩より下手だったら笑えないでしょ!?」

 

ドッwww

またまた湧く客席。

 

「事前に出演順を変えてほしいってお願いしたんですよ?それを却下しておいてこの仕打ちとは。。。若手いじめにもほどがありますよ!」

 

ドッwww

客席の笑いも十分。

観客を引き付けたところでようやく本題に入る。

 

「当時のそばの値段は一杯十六文だったようでございまして・・・」

 

そこからはもう順調で、話芸でも顔芸でも客席は盛り上がり、終始笑わせ通しで高座を終えた。

 

やってやった。

念願の時そばでここまで笑いを取れた。

 

無事に演者全員の出番も終わり、最後に主催者さんの挨拶で落語会の幕を閉じる。

 

「若手からケチをつけられましたので、この後二人きりでミーティングをして帰ろうと思います。本日は本当にありがとうございました!」

最後においしいとこ持っていかれたーーー!!!

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