ウィムッシュ!
第4回の落語教室がスタートした。
今回は多くの方に落語に触れてもらいたいとの教室主催者の意向で、生徒のほとんどが新人となった。
主催者から事前にその旨を伝えられており、あいさつや着物の着方、高座返し等の所作を教えるように言われていた。
「おはようございます!今回もよろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします。」
お!いつも一番遅いのに今日は一番乗りで教室に着いた!
教室には師匠一人。
さっそく着物に着替えて師匠との雑談を楽しむ。
少しすると常連の姉さんが到着し、後に続いて新人たちがやってくる。
そして、開始時間直前。
「お待たせしましたー。」
最後の新人がようやく到着。
「Nice to meet you!ワタシ、Georgeと言います!どぞ、よろしくお願いしまーす!」
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まさかの外国人ーーー!!!
確かに新人とは聞かされていたけれど!
あいさつや所作を教えて欲しいとは言われていたけれど!
まさか外国のかたとは!
思わぬ角度からの意外性に面食らってしまったが、さすがに師匠はしっかりと対応。
「皆さんお揃いなのでさっそく始めましょう。まずは正座で手を付いてお辞儀をします。では、よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
稽古日の1日目は毎度恒例の師匠からのネタ下ろし。
順々に師匠の前に座り、演目をいただいていく。
演目をもらい終えた人達は、記憶を便りに必至にノートに台詞や所作をメモしていく。
そんな中
「Ouch・・・oh my god・・・」
何故かちょい難し目の演目を渡されてしまった外国人から悲痛な呟きが聞こえる。
だが、皆、自分の演目に手一杯で助けている余裕がない。
まだネタをもらってない自分は、外国人って本当にoh my godって言うんだーと小さな発見を噛み締めていると
「最後に、みやのひろさん」
師匠からお呼びがかかる。
「何が良いかな。」
今回の落語教室で4回目となるので、そろそろ前座噺ではなくちょっと高度な演目もやってみたいと欲が出てきていた。
心の中で『良い演目!』と祈り続ける。
少々の思案の後、演目が決まったようで師匠が正面に向き直る。
「では、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」
お互いの礼を終えてから、師匠がゆっくりとネタを繰りだす。
「えー、世の中、色々な癖がございますが、なかには小言っぽいなんてな方がいらっしゃるようでございまして。」
小言っぽい・・・?
これってまさか・・・
小言幸兵衛じゃないかーーー!!!
小言幸兵衛は何度も繰り返し聞いた大好きな演目。
まさかの大ネタにかなりテンションがあがる。
一言も聞き漏らしがないよう、師匠の落語に集中する。
しかし、小言幸兵衛は大ネタなだけあって、長い。
「あのー、家主はこちらですか?」
マクラが終わってようやく話が転がりだした。
この時点ですでに10分。
皆、平均して10~15分の演目を渡されている中、マクラだけで平均タイムに到達してしまっている。
師匠の落語は勢いを増し、どんどん進んでいく。
そして、ストーリーが展開されるにつれ、正座も限界を迎え、どんどん足が痺れていく。
やばい・・・
足の感覚がほとんどない・・・
どうにか痺れが治まるような足の組み方をしなければ。
正座を崩すことはできないので、こっそり足を揉んでみたり足の上下を変えてみたりと、微力ではあるが試行錯誤してみる。
ようやく、ちょっと痺れが解消されたかな?と気を抜いたそのとき!
「誰がジャジャジャジャーーーー!!!」
ビクッ!!!
うおおおおーーー!ビックリしたー!
突然の師匠の咆哮。
もちろん台詞のひとつなのだが、足の痺れに気をとられており、かなり驚愕してしまった。
チラッと周りを見れば姉さんや新人たちもかなり驚いている様子。
皆、考えることは一緒なのかもしれない。
気を引き締め直して、改めて師匠に向き合う。
このときのボイスレコーダーの表示は17分。
すでに平均タイムを2分オーバーしているが、師匠の落語は止まらない。
話は新たな展開を迎えるべく登場人物が入れ替わる。
さぁ、まだまだ続くぞ。
保てよ。俺の足!!!
正座の限界点は疾うに超え、足の痺れも1周回って治まり、再度ぶり返してきたあたりでようやく話も佳境に入る。
そして、待ちに待ったサゲの台詞が師匠から放たれる。
「バカバカしい小言幸兵衛でございます。」
もう永遠に続くのではないかと、本気で思い始めていたのでサゲの台詞が信じられなかった。
だが、他の生徒の拍手でようやく終わりを自覚し、慌てて師匠に礼のお辞儀をする。
「どうもありがとうございました。」
「ちょっと長かったですかね。どれくらいになりました?」
師匠も長いと感じていたのか、時間を聞いてくる。
ボイスレコーダーの表示を見ると
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40分。
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長ぇよ!
長すぎだよ!
40分てびっくりした!新人達に経験者と新人の差を見せつけようという意図はなんとなく察したけど、それでも40分て!
「40分ですか。やっぱりマクラが長すぎましたかね。」
師匠の言葉に、マクラを削っても30分を越えてます。充分長いです。と心の中で返答し自席へ戻る。
「では皆さん、次回までに今日やった演目を各自頭に入れてきてください。」
「「「はい!今日はありがとうございました!」」」
大変なことになった。
高度な演目が欲しいと祈りはしたが、ここまでレベルの高いのは求めていない。
まさかの大ネタに放心していると、師匠から一言。
「やっぱりマクラが長すぎたかなー。」
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長いのはマクラだけじゃねーーー!
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